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怒涛のクロッキーゼミ

たまには真面目な仕事のお話を。 私は今、二つの美術大学で非常勤講師をしている。 “非”常勤の役割って何かなと考えたところ、掻き回すことだなと思った。 私は7年も藝大にいたけど、一番思い出に残る授業って、と思い浮かんだのは、本番間近なフラメンコダンサー達が真剣に踊るところをクロッキーする3時間あまりのゼミだった。 大学に入ったばかりの私は、その迫力と目まぐるしい速さに完全に吞まれ、全然描けなくて号泣してしまった。と同時に、同じ年か少し上くらいでこんな凄い女の人達が存在することにショックを受けた。 翻って、今 私は学生に何をしてあげられるだろうか。 そうだ 私のまわりの凄い人達を連れてきて 絵とは違う世界を知って貰おう。 題して「プロから学ぶ怒涛のクロッキーゼミ」

3~4週間ぶっ続けでクロッキーをする。 毎日その道のプロフェッショナルを呼び 演じ 踊り 歌い、ワークショップをしてもらう。

初日は大概ガイダンスだけど、時間が勿体ないから いきなり描く。

大音量の音楽で 派手な衣装の美しいお姉さんが 艶めかしく踊りながら 学生を挑発してる。

自前の衣装の男性ダンサーは何かに似てるなと思ったら芋虫だった。

またある日は、全身Tattooの悪役のプロレスラーがやってきた。 男子学生相手に 技を決めてもらったりしたが 私もこんなクロッキーのポーズ見たこと無い。


去年の学生は体格がよかったので心配しなかったが、今年は繊細な美少年で、終わってから心配で「大丈夫だった?痛いとこない?」と3度も連絡取ってしまった。学生のえこ贔屓はしないように気を付けよう。来年はレスラー同士でやってもらおう。 学生に何でも質問してみ!と言ったら「Tattooを入れるきっかけは?」「プロレスはヤラセとかじゃないんですか?」など ひやっとする質問にも丁寧に答えてくれた。

悪役の立場で有りながらも人を傷つけることのプレッシャーから失踪した話や、リングに立つ日は 戻らないことも考えて 部屋を片付けて出るという話も聞いた。死と隣り合わせの仕事なのだなあと改めて思った。

今まで何度か「こんなのはただの似顔絵だよ!」と似顔絵という言葉をネガティブに使うのを聞いたことがある。 じゃ、似顔絵って何だ? 私には似顔絵世界チャンピオンに輝いた友人がいる( ̄一 ̄)ドヤガオ

彼が描いてるのを見ている学生の顔が良い。みんな笑顔だ。

コツを伝授されお互い描きあった。


描いてもらったものを持って撮ったが、右下の二人だけは私の話を聞いてなかったのでそのまま。

プロのカリカチュアリスト、田中徹の描いた私たちの顔。 今年の担当の助手さんはとても可愛い女性、 Lovelyな仕上がり。 それにくらべて私のは何なのよ!

捨て身で絵に顔を寄せてみました、すんごい似てる…

私が出講でない日には ダンサーやミュージシャンそれぞれのワークショップを受けてもらう。あぁ私もこれを受けたい!

パーカッションにあわせてラップする助手、踊る学生。

身体を使った表現や、声を出してコミュニケーションをとるなど、描く以外のことをする。それから描く。 「恥をさらす。恥ずかしくならないまで勇気を出してやってみる」 全てがクロッキーに繋がっている。

そのほかパントマイムの役者や、全く言葉の通じない外人や、パフォーマーに「10分の間に自分がやってもらいたいポーズ、動き」を各自リクエストしたり、初めて聴く楽器の音を延々と描きとめてもらった。

毎日一つ新しいことをする。 時にモデルとぶつかり合い、剣を渡して「僕と戦ってください」というやつもいるかと思えば、私もポーズしますと言ってヌードの男性のそばで上半身裸になった女の子もいた。 恐いもんなしだね。 私に限って言えば、自分の制作に今まで影響を受けた人をあげると絵描きはあまりいない 彫刻のほうが好きだ。 役者、ミュージシャン、ダンサー、物書きたちから得る刺激と共感が私の原動力だ。 美大の先生ならもっと絵を教えろと言われるかも知れない。 皆が絵描きを目指しているわけでは無いし、絵描きになれるのなんか ほんの一握りだ。 厳しい現実の中、それでも選択肢は無限にあると思う。 今年は、大学の他にベルギー、ロシア、オーストラリア、中国、台湾で、ワークショップや展覧会、個展の話を頂いた。…多すぎる…また NOと言えなかった。 ライバルの友らは今日も稽古に励んでいる。私の好きな安住紳一郎氏も、狂っていると言われたら本望だと言っている。 そうだな、私も見習って、何かしらがんばってみよう。 今年もどうぞよろしくお願いいたします。


2016/1/1

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