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水彩のおもいで

水彩のおもいで

 日本画やデザイン・工芸を学ぶ学生は水彩絵の具を普段から使うことが多く 身近な素材と言えるでしょう。私は油画出身なので 受験の際にも“水彩画"は習うことがありませんでした。ですから初めてアルバイトで水彩を教えた時には“固形絵の具"も知らず「これどうやって使うの?」と 逆に質問ばかりし、生徒さんの持っている高い筆にも目を丸くしたものでした。  10年ちょっと前、私が入院していた時、 普段はアルバイト以外で“自分のために”水彩画を描くことはありませんでしたが、暇潰しに水彩くらいならベッドの上で描けるかなと絵の具とスケッチブックを持ち込みました。 病院の入り口の花屋までそろりそろりと歩き ガーベラを三本買ってきました(病院の花屋はホントに高い!)。枯れそうになるとまた新しい花を買いに行き…そんなある日 花屋のご夫婦がかなり豪華で奇抜なフラワーアレンジメントを創作しているのを見て、私は「すご~い!なんか見たこともないような花ばっかり!それどうするの?」 お店の主人が「なんでも有名な絵描きさんが入院してるんだってよ。前衛的な花にしてくれって注文でね…」 私は「えぇ~っ!誰が入院してるんだろう?知ってる人かなぁ」と不謹慎にもドキドキし、聞いてみたかったのだけどその時は 花を2、3本だけ、いつものように買ってベッドに戻りました。少し経って 私のいた6人部屋に うやうやしく大きなアレンジメントをかかえたさっきの花屋の主人が現れました。 私の名を呼ぶのでビックリして返事をすると、もっとビックリしたのは花屋の主人。 「…あんた…なの?」(明らかにがっかりしている) 「えっ!わたし?あ、ホントだ、旦那の同僚からだ」 「あんた有名な絵描きさんなの?」 「んなわけないでしょ、だったら個室に入ってるよ」「だよねぇ(笑)」 さっきなけなしのお金で買った花が急にショボく見え… 6人部屋の狭いスペースには明らかに邪魔な、奇抜すぎる特大アレンジメント(ごめんなさい!)。 思わず心の中で「あぁ、分割で欲しかった…」。 そんな中、時々回診に来る教授は、ものすごく怖くて看護婦(当時は)さんもいつも怒鳴られ、その時だけは空気がピリピリしていました。私も触診の際、あまりに痛くて思わず教授の手を払い除けてしまい、烈火のごとく怒られました。条件反射じゃん!と心で叫びながら痛くて泣いていました。 以後、その教授が大嫌いで、たまに私が絵を描いているときフラッと入ってくることがあっても完全無視して描いていました。 その日は、教授が「見ててもいい?」と入ってきたので私は描きながら「どうぞ」と言い、相変わらず無視しながら描いていました。 その日以来何度か円椅子持参(!)で見学に来て、次第に話をするようになり、なぜか打ち解けてきました。 絵を見ている姿が 子供のように無邪気で、あの陰険な態度は何処へ?だったのです。ルームメイト(同室の患者さん)からも「怖くなくなったよね~」と感謝されました(笑) 絵を描いていると 出会いが増えます。 特に水彩画は、誰でも小さいときに描いたことがあり、何十年も忘れていたことをふと思い出すきっかけになったりするのでしょうね。   2009/7/16


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